
窓の外に雨の京都を見ながらバスにゆられ、木屋町のとくをさんへ。店主の徳尾真次さんの凛々しくも気遣いにあふれたお姿をカウンター越しに眺め、食器棚の扉の透かし彫りの見事さに目を凝らしつつ、わくわくと料理を待つ幸せな時間。お酒は新潟の〆張鶴を。

先付けは鯛のなかおちの煮凝りにいくら醤油漬け、釜あげしらす。旬の素材は、ご主人自らが市場に足を運んで選び抜かれたものばかりだという。このいくらときたら、あまりにもぷちり、ぱちりと個を主張し、文字通り歯向かうほどの張りのよさである。恐れをなした隊長がそっと自分のぶんも差し出した。この臆病者め、といいつつわーいと儲けもん。

お造りは本まぐろに、赤貝、つばすを。焼き物は、丁寧に焼き上げられた本ししゃも。ああ、主役は素材なのだな、と思わせてくれる海の味わい。舌にひやりとするのに、ぬくもりを感じさせるお造りは、料理する人間の手と素材が調和している証しだろう。このあたりで、お酒は富山の勝駒に移行。

小蕪の吹き寄せ。口に入れたら、とろりと甘く崩れる蕪の儚く消え去る食感、それを追いかけ吹き寄せる秋の味たち。鉢のなかに秋色の風が吹いていて、思わず松田聖子を歌…ったりする勇気はない、この静かなカウンターでは。

豪華に盛られた松茸フライにいいのですか?いっちゃっていいのですか?と問いかけたくなる。口に入れればさっくり崩れる衣から、茸の放つ芳香。どこのでしょうか、と尋ねてみたところ、「中国です。日本産を出したら、うちの店つぶれちゃいますから」とおおらかに、しかし少し恥じらいながらおっしゃるご主人。そうなんだろうなぁ、としか、日本を離れて久しい私にはわからないのだが、色々と料理人としての葛藤もあるのだろうな。

そして、さっきからちらちらとこの炭が赤く燃える焼き場の様子が気になって仕方ない私たち。あ、今入れられたお肉はもしや…?

やっぱりおまえだったか…と目を細め、目の前の美しく焼きあがった薔薇色を見つめる。宮崎和牛のステーキ。京都では「肉より魚が好き」なんて言っておられぬ。これだけ芳醇な肉に巡り合えるのだから。
こだわりがあるのに、押しつけがない。カウンターは満席なのに、どこか余裕とくつろぎがある。味とともに、接客の基本を見せていただいた今宵。京都に来たらまたきっとお邪魔しようと心にきめ、まだ降りしきる雨の川辺りへ満足のため息とともに。それにしても、降りすぎじゃよ、雨…。
◆とくを
京都府京都市下京区木屋町仏光寺上天王151
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